泣きゴトなんて言っちゃいられない
               負けないし、負ける気もない
               もう駄目って気持ちを認めたら、あいつに屈したってことになるから
               絶対に、駄目なんて言葉言いません









               わた雲










               「・・・何ですか、これ」
               「見てわかんねぇのか。マネージャーの仕事だ」


               軽く30ページはある冊子が跡部の手から手渡された
               ちょうどいいところにゴミ箱があるが、捨てれば間違いなく辞めさせられるだろう


               「それを毎日こなしてもらう。まぁ、最後の20ページほどは規則事が書いてあるだけだがな」
               「準レギュラー仮マネージャー宍戸・・・?
                あたし、準レギュラーのマネージャーなんですか!?」
               「前にも言ったかもしれねぇが、今のところうちの正マネージャーは一人だ。
                あいつはレギュラーの仕事がある。次々に辞めていくから本当に人手が足りねぇんだよ。
                準レギュラーの奴にゃ悪いが、お前には準レギュラーの世話に回ってもらう」


               いちいちカチンと来るやつだな、オイ
               ・・・ん?あたし、なんか最近性格変わってる・・・?
               や、嫌だなぁ・・・これぐらい、お兄ちゃんと一緒にいれるんだからどってことないよね!


               「とりあえず、この項目にそって仕事をこなせ。
                今日は主に部室の整理をしてもらう。
                後で練習試合があるから、その時になったらスコアのつけ方をもう一人のマネージャー見て覚えろ。」
               「・・・この、部誌っていうのは?学級日誌みたいなもんですか?」
               「そうだ。毎日、書いて部長のところへ提出だ。
                お前は主に準レギュラーのことで気付いたこと、足りない備品とかを書け」
               「・・・わかりました」


               冊子と部誌を軽く握り締めるようにして持った
               跡部先輩はこれで役目は終わったとばかりに軽く息をはくと去って行った

               改めてコート上を見わたして見ると物凄い部員の数だった
               これをたった一人で切り盛りしているというマネージャーの存在が大きいのだな、と認めざるを得なかった


               「あれ、ちゃんやん。体操服ってことは…仮マネージャー認めてもらったんや?」
               「おっしー先輩!」
               「せやから敬語いらんて。良かったなぁ…」


               撫で撫で、と頭を撫でられる
               こうやって改まってみるとユニフォーム似合うなぁ、と思った


               「ちゃんはどんな課題もろたん?お役に立てるようやったら協力したるで?」
               「ほんとーっ?あ、あのね…」
               「ん…?……そら、またムツカシイことやなぁ…」
               「でしょ?鬼だよねー…」
               「九人分て…。関口さんの時より多いなぁ…」
               「関口さんって?」
               「今の正レギュラーのマネージャーさんや。三年の先輩やで。ちなみに、むっちゃキツい」
               「性格が?」
               「性格というか…何というか…雰囲気もギンギンやしなぁ…。何より、男好きや」
               「おっ…」


               それ中学生!?男好きの中学生なんて漫画やアニメの世界だけかと思ってた
               でも、おっしーの真剣な表情から真実であることが物語っている
               おっしーの低い声とその信じられない話に耳をいっそうそばだてた


               「跡部の、何番目かの彼女らしいな…」
               「何番目って…(汗)」
               「自分でも何人おるかようわからへんらしいで」
               「へぇ…」
               「…随分どうでもよさげな返事やな」
               「うん。ねぇ、それより…」
               「ちょぉ待って。来たわ」


               突然話をやめてしまったおっしーを見つめると、
               長い人差し指を唇にあてている


               耳、すましてみ?


               口パクでそう言われて息も殺すほど静かにしていると、
               ダー○べ○ダーのテーマソングが聞こえてきた
               その音楽にピッタリなスペースと歩幅で貫禄のある女が近づいてくる


               「忍足くん!またサボってるでしょ…。早く、準備運動して!
                そんなんじゃ狙ってるレギュラー取れないわよ?」
               「わかてるて。ほなな、ちゃん」
               「あ、うん。いろいろ、ありがとう」


               立ち去っていったおっしーを見送ってもテーマソングは消えない
               一体どこから流れてくるんだろうか


               「あなたが、宍戸くんの妹さんね?」
               「あ、はい。よろしくお願いします。宍戸です」
               「よろしく。私は関口です。じゃ、さっそくだけど部室整理してくれる?
                景吾にも言われてると思うけど」
               「はーい。わかりました」
               「伸ばし棒はいらないわよ。「はい」って区切って」
               「え、あ、は、はい。ごめんなさい」
               「ほら、早く掃除して」


               ぐいぐいと女とは思えないほど、いや、下手すれば先日跡部先輩に掴まれた腕の力よりも強かったかもしれない。
               そんな力で部室に押し込まれた

               そこは、まさに芸術の世界
               開け放っていた奥のドアの向こうには超ダサい豹柄のソファーにロッカーが見えた
               そして、資料がつまっている棚がおそろしいほど乱雑に整理されていた
               あら、入らないわ…おっりゃぁ…!よっし、入った…!というタイトルっぽい棚


               「うわぁ…これは大変かも…」


               試しに小さいファイルを棚から抜いてみると大量の埃があたりを舞って、
               プリントやらノートやらが足に直撃した


               「痛ぁ…っ!…な、なんて整理が悪いの…」


               うぅ…と唸っていると同じくしてう…と声がした
               でもそれはあたしとは違う目覚めの声
                声が聞こえてきたのは奥の部屋だった


               「お、お邪魔しま…す?」


               中に入ると、部屋の隅で1人のテニス部員が眠っていた
               先ほどの物音で意識が戻りつつあるらしく、目を開けたり閉じたりしている


               「あの…?」
               「あ〜…んーと…新しいマネージャーさん…?」
               「あ、はい。えっと…二年生ですか?」
               「んー…ん…」
               「え、違うの?え、一年生?もしかしてっ!」
               「んー…んぅ…」
               「うわぁ、仲間発見!よろしくー宍戸です」
               「あ〜…よろしく…。俺、ジロー……」
               「ジロー?上の名前は?」
               「うん…ジロー…」
               「え、いや…(汗)」


               何だか調子狂うキャラだなぁ、と視線を宙に彷徨わせたとき、
               ジローくんの抱き枕に目がいった
               この枕、知ってる
               何年か前にお兄ちゃんが誕生日プレゼントにって買ってくれたひつじさんの枕
               ほわほわな手触りで毎日一緒に寝てる子


               「あ、これ…あたしも持ってるよ!」
               「マジ!?」
               「ひゃっ」
               「これすっげー可愛E−よねー!そんで寝心地最高だしさー!」
               「う、うん。」
               「これ枕にして寝るといつも良い夢見れるんだー。
                こないだはひつじ牧場に行く夢みたよ〜」
               「えー、それいいなぁ。触り放題だね!」
               「うん、食い放題だったし!」


               …ん?今なんか恐ろしいことが聞こえたような…


               「ジロー君も部員なんでしょう?練習、始まってるけど大丈夫?」
               「あー…もうそんな時間かぁ…。そろそろ行かないと樺地が来るかも〜…」
               「…かばじ?」
               「じゃあ、行ってくるよー。またひつじ話しようね〜」
               「うん、バイバイ。ジローくん」


               ぶんぶん、と入り口で手を振って出て行った
               ジローくんかぁ…。何かすごく可愛い子だったなぁ…男の子なのに。
               …あの金髪は…て、天然なのかなぁ…。
               あ、鳳くんにも結局のところ天然かどうか聞いてないや…


               悶々と考えをめぐらせながら、とりあえず片付けを始めた


               一時間後
               本棚が整理できたと思って振り向くと違う棚が汚かった
               泣きそうになりながら、窓から外を見ると関口さんがホイッスルをふいていた
               その音に反応してざざっと集まってくる一同
               隅のほうで一年生たちがスコアボードを出していたので、どうやら練習試合の始まりらしい
               慌てて、部室から出た


               「じゃ、対戦表は掲示してあるから。それ見て場所に移動してね。
                景吾!景吾はねぇー、Aブロックの五番だからぁー…第二試合だよ」
               「あぁ」


               さっさと歩いていく跡部先輩のあとをお付きの人みたいに関口さんが付いていく
               途中、ドリンクやらスポーツタオルを腕いっぱいに抱え、喋っている一年生を叱ってと、
               仕事ブリは良いものの、部員全員がしらけた目で見送っていた
               スコアボードを教えてもらおうと近寄れば視線で近づくなと言われ、帰るしかなかったのも事実だけど…


               「ちゃん!」
               「お前、どこにいたんだ。頭に埃のってるぞ」
               「え、ほんと!?だいぶ払ったんだけどなぁ・・・」


               埃を取ってくれる鳳くんにお礼を言うと、コートに立つジローくんが視界に入った
               ジローくんもあたしに気付いたらしく、ラケットを振って応えている


               「え、ジローくん。もう試合に出るの・・・!?ってことは、一年生も試合に参加できるんだ?」
               「ううん、一年生は明日だよ。」
               「お前、勘違いしてないか?・・・芥川先輩は二年だ」
               「え・・・。でもさっき・・・」
               「どうせ寝ぼけてたんだろ。あの人、ずっと寝てるらしいからな」
               「日吉・・・何気に樺地と仲良いよね」
               「フン・・・たまたま聞いただけだ」


               ど、どうしよう・・・めちゃくちゃタメ語で話しちゃった・・・
               というか、ただでさえ上級生の推薦書なんて貰いにくいのに・・・生意気な後輩だとか思われたかなぁ・・・


               「
               「あ、お兄ちゃん!(後で考えよっと)」


               颯爽とお兄ちゃんが現れた
               試合に勝ったのか、ものすごく機嫌が良さそうな顔をしている


               「大丈夫か?仕事、キツイなら無理するなよ」
               「だーいじょぶ!これくらいどってことないって!」
               「そうか・・・ならいいんだけどよ。俺を気遣って部活に入ったとか言うんだったら・・・」
               「そんなこと考えないで、お兄ちゃんは頑張ってレギュラー目指してください」


               出来るだけ、笑顔を繕った
               お兄ちゃんの一言が中々に的を得ていたから
               それに気付いたのか、気付かなかったのかはわからなかったけど、温かい手が頭を撫でてくれた
               和やかなモードに突入したとき、黄色い声がそれを裂いた

               帝王様の登場である


               「勝つのは・・・俺だ!」
               「きゃあーっ!跡部様ぁー!」
               「素敵ー!」
               「26番目の彼女にしてくださーいっ!」


               「・・・数えたんだな、あの子」
               「・・・だね」


               ノリについていけない数人のテニス部員と宍戸兄妹


               「新聞部です!今日の練習試合の勝利は誰に捧げるおつもりですか?」
               「まだ勝つと決まっちゃいねぇが・・・ま、いいだろう。
                そうだな・・・、新しい仮マネージャーの宍戸・・・でどうだ?」


               「・・・ぇ」


                思わず漏れてしまった声に数百人の女子が振り向いた
                突き刺さるような視線と、執念のこもった瞳
                もちろん、その中に我が部のマネージャーも混じっている


               「やべぇ、っ、逃げろ!」


               お兄ちゃんの言葉に頷くと慌ててその場を駆け出した


               宍戸、ただいま大いにピンチです・・・












               あとがき
                   ジローを目指しました。マジで。跡部出張ってない?かと思われますが、ご勘弁。
                   跡部との絡みは必ず、宍戸兄貴は多分必ず毎話出ると思われます。
                   だってこの二人のために連載やってるようなもんだもん…!